Rashii

日本のソーシャルビジネスのポテンシャルを開放する。?

リサイクルだけじゃない。
サーキュラーエコノミーの輪をとじるとは?

―――mymizuはペットボトルの削減を目指したプロジェクトですよね。
なぜペットボトルに着目したのですか。

マリコさん:日本では外で水を飲みたくなったら、大体ペットボトル飲料を買うしかないですよね。でも私が欲しいのは飲料で、ペットボトルではない。「なぜゴミにしかならないペットボトルにお金を払わきゃいけないの!?」って、ずっと疑問でした。今はたまたま、飲みものだけを買えるサービスがないので、みんなペットボトル飲料を当然と思い込んでいるけど、本当はそうではないはずです。まずはマイボトルを使う人を増やし、その人たちの存在を可視化すると、飲みものだけを提供するサービスにニーズがあることがわかりますよね。すると飲みものを提供するビジネスのデザインに変革が生まれます。今、そのためのマーケットをつくっている感じです。必ずしもペットボトルにこだわる必要はないですが、人の行動を変えるスイッチは、小さいほど押しやすいので、ペットボトルをきっかけに意識が変わって、ストロー、ビニール袋などでも、課題意識が広がることを期待しています。

―――マイクロプラスチック問題はどのような現状ですか?
また、最近プラスチックを完全に悪と決めつけるのはよくないとの意見もありますよね。

マリコさん:WWF(世界自然保護基金)によると、既に我々は週に5g、クレジットカード1枚分のプラスチックを食べている可能性があるそうです。日本周辺の海域はマイクロプラスチックのホットスポットにあたる上に、魚貝類をよく食べるので、もっと酷いかもしれません。

ロビンさん:気候危機改善のためには、全体としてCO2の排出量を減らすことが重要です。そのために今の消費スタイルに合わせつつ、少しでもよくするために、プラスチックが必要になるシーンもあるかもしれません。例えばフードロス対策にプラスチックの持帰り用容器が役立ったり、輸送用の資材に軽量なプラスチックを使って、ガソリンの使用量を削減したり。でも最終的には、その容器や資材もプラスチック以外でつくれるはずだし、そうするべきです。

マリコさん:キノコから発砲スチロールの代替品をつくる技術があるのですが、普通のものと比べてまだ割高です。しかしIKEAがそれを導入することで大量発注でき、製造コストも下がることを期待できます。アディダスの海洋ゴミをリサイクルしたスニーカーが話題になりましたが、その技術にアディダスなどの企業が投資したことで、海洋ゴミをリサイクルする技術のコストも下がりました。このように、大きな企業が動いたり、企業同士が連携して、スケールメリットを創出できたりすると、環境に優しい新技術のコストや生産規模の壁を壊すことができます。そのための政府の補助もあるので、どんどん活用していくべきです。

ロビンさん:日本のリサイクル技術は進んでいると思われていて、捨てたプラスチックは全て、またプラスチック容器や、繊維として循環リサイクル(マテリアルリサイクル)されるというイメージがあります。日本のプラごみリサイクル率は84%と発表されていますが、実はこの数字には、燃料として燃やしてしまう56%のサーマルリサイクルも含まれます。ある実験で、リサイクルマークがついたゴミ箱を置いた部屋と、ついていないゴミ箱を置いた部屋を比較すると、明らかにリサイクルマークのゴミ箱を置いた部屋の方が、捨てられるゴミが多いそうです。みんな(循環)リサイクルされるから大丈夫、と思うから、そもそも買う量が増えたりする原因になるようです。現実を知れば、ゴミ、そして買うもの自体を減らそうと思うんじゃないかな。

マリコさん:もともと徳島県上勝町のゴミをゼロにする取組みに力を入れてきた坂野晶さんの「ゼロ・ウェイスト・ジャパン」も素晴らしい取組みです。

―――サーキュラーエコノミーの「輪をとじる」とはどういう意味ですか?

マリコさん:日本では「サスティナビリティ」や「サーキュラーエコノミー」をイコール「リサイクル」ととらえている人が多いです。でも今世界でサーキュラーエコノミーの文脈で議論されているのは、そもそもの廃棄物をださない新しい経済システムで、より根本的な解決策です。根本的にゴミの出ない社会をつくる、そのためのビジネスデザイン、プロダクトデザインが大切です。リサイクル以前にリユースする仕組みや、シェアリングエコノミーでひとつのものをシェアして使うとか、社会自体のリデザインが進められています。日本もここ1年で、徐々にこういった議論がされるようになってきました。新しい経済システムの例では、フィリップスが取り組んでいる「Lighting as a service」(サービスとしての照明)が有名です。フィリップスはもともと電球を売る会社ですが本質は「明るさを提供することである」と考えて、「月額制でオフィスを明るくする」というサブスクリプションのプランを販売しました。すると企業と消費者両方にとって「長持ちする電球」がメリットになり、電球の廃棄が減ります。ビジネスモデルを変えることで、企業と消費者が同じ方向を向けるようになったのです。他だと、スマホのカメラを新しくしたいとき、今はスマホ自体を買い替えなきゃいけない。でもパーツを部分的に取り換えられる携帯も販売されています。mymizuの場合、そもそもの社会デザインとして、マイボトルや使い捨てでないタンブラーなどに入れる飲料のサービスが普及することが理想です。飲みものを提供するビジネスは、必ずしも「ペットボトル飲料」である必要はありません。

ロビンさん:全員がマイボトルを持つことも、ひとつの新しい社会デザインです。無駄のないデザインを通して、サーキュラーエコノミーの輪をとじることを考えていきたいですね。

マリコさん:ただ、もちろん理想はあるけれど、単純に「環境に悪いもの」を削除するために、生活者の利便性を損ねてしまうと、普及しにくいです。例えば、ペットボトルを使わない社会を実現するには、もっと便利なマイボトルが必要かもしれません。コンビニと連携して、外出中に店舗で返却できるマイボトルとか。常識と思われているビジネスや、社会のモデルをリデザインすると、生活の利便性を損なわず環境負荷を減らせるはずです。

―――外国でのペットボトル事情はどのようなものですか。

マリコさん:イギリスはここ3、4年で大きく変わりました。マイボトルが常識になって、たまにペットボトルを持っていると「どうしたの?なにかあったの?」と言われちゃうぐらい(笑)、社会システムに組込まれています。ここまで広まったきっかけは、国民的な人気作家デイビッド・アッテンボローがプレゼンターの、自然の魅力を伝える「Blue Planet 2」というテレビ番組で、毎回最後に人類の行動と、その自然環境への影響を振り返ります。この番組をきっかけに、環境に気を遣うことが「かっこいい」という雰囲気が生まれ、全国的にレジ袋が有料になるなど、社会の雰囲気がガラっと変わりました。マイボトルを持つことが魅力的、かっこいいという雰囲気が社会を動かすので、私たちも「かっこいい」「魅力的」「楽しそう」と思われることを意識しています。ヨーロッパやバリ島はマイボトル保持者がすごく多いです。アメリカは町によって違う。オーストラリアも意識が高くて、マイボトルにこだわって150ドル位のものを持っている人もいるみたいです。もともと水が貴重なのと、気候危機の影響を直接的に受けているので、意識が違いますね。最近、実は日本もマイボトル保有率が高いと聞きました。子供のときはみんな使っているのに、大人になると使わなくなってしまうのはもったいない。

ロビンさん:日本人は結構人の目を気にするところがあるので、東京オリンピックが実現すれば外国の目にさらされて、意識が変わるのではと密かに思っています。外国人と話すと「日本は大好きだけど、プラスチックが溢れていることに失望した」という声をとてもよく聞くので。

―――今DXが注目されていますが、デジタルの進化で良くなったことはありますか?

マリコさん:SIJのような事業はイベント来場者数などで評価されがちで、その後のシーズの発生を可視化、評価しにくいことが課題です。でもアプリベースのmymizuは、登録者数はもちろん、何人が給水したかを数値化することで、需要の存在を証明できます。ユーザーにとっても、削減したペットボトルの数や、削減できたCO2量の排出量を数値化する機能が、モチベーションアップに貢献しています。これはテクノロジーの強みですね。サブスクリプションのようなビジネスモデルが可能になったのもデジタル技術あってこそだし、色々なおもしろい仕組みが生まれやすくなったと思います。

ロビンさん:良いツールをつくっても、人に見られないと意味がない。でも今は小さな組織や個人でも情報発信できるので、そういう意味ではやりやすくなっています。

マリコさん:mymizuには個人経営の小さなカフェなども給水スポットとして登録されています。我々からカフェに掲載のお願いはしていないのですが、函館やカリブ海の島など遠いところからも登録してくれていて、これもテクノロジーがあるからこそですね。お店としては、mymizuへの共感はもちろん、PR的なメリットや、大企業ではない小さなビジネスでも社会に貢献できることに魅力を感じてくれているようです。

ロビンさん:ユーザー参加型もDXの強みです。mymizuは自分で公的給水スポットを投稿でき、参加する楽しさがあります。みんな積極的に投稿してくれていて、公的スポットもカフェも登録が追い付きません(笑)。参加型にしたことが、とても強みになっています。mymizuは我々だけではなく、みんなのものだと感じますね。

次に続きます。

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