Rashii

「よなよなエール」でノーベル平和賞を目指す?

仲間をつくる

―――御社の商品がかなえてる社会価値とか、解決している社会課題は何でしょうか?

ミッションの「ビールに味を!人生に幸せを!」が言う、人を幸せにできるっていうのは、すごい大きいことだなと思います。世の中、生活が苦しかったり、いろんな格差があったり、いろんな問題があると思うんですけど、そういうところを忘れて、「よなよなエール」を中心に、うちのビールを飲むと幸せになる。それはとてつもなく大きい価値。その中でも分かりやすいのが「仲間をつくる」ということです。お客さんも、もしかしたら気付いていないかもしれないけど、われわれのビールを飲むことによって、根底に流れている一つの価値観に、「仲間をつくる」というのがあると思うんです。イベントで、見たことも会ったこともないファンの方たちを集めて、そこで仲良くなって友達になってもらって、その後交流が生まれたり、イベントの後二次会に行ったりとか、中には結婚される方もいらしたりする。人をつないで仲間になって、ビールを飲んでおいしい、ビールを飲む環境とかシチュエーションもひっくるめて、この時間だけは幸せになれるというところは、いろんな社会で悩んでいたりしてる課題を、そのときだけはわれわれが取り除いてあげられているのかもしれない。

「よなよなエール」がなかったら知り合うこともなく仲良くなることもなかった、そういう、人のつながりが希薄な中で、なぜリアルイベントとか、オンラインイベントとかで人が集まって、いろいろ交流するのかっていうと、なかなかそういうのがしにくい世の中になっている中で、このビールを通してだったら、これがすこしハードルが低くなり、あと、お酒っていう機能もあって、ちょっとほろ酔い気分でフレンドリーになれたり。われわれがもともとそういう会社の雰囲気ということもあると思います。

―――コロナ禍で、ソーシャルディスタンスなど、人と人とのつながりが変化していると思いますが、その中においても全然、ヤッホーブルーイングは変わらないですか?

変わらないですね。今までは、それがリアルが中心だったんですけど、今はリアルができないので、今年に関していくと、リアルなイベント、リアルなつながりは、一切なしでいこうと。全部、オンラインでやろうと。ちょうど昨日、オンラインイベントの2時間程度のイベントでも発表したんですけど、いろいろ今までもSNSとか独自のわれわれの自社サイトでは告知してきましたが、一緒に「よなよなエール」を持って踊って、みんなで動画を作ろうと。こういう時代だからなかなかつながれないけど、みんなで動画で撮って、それで一つの流れで、たくさんみんなで踊りを一緒に見て、楽しくハッピーになろうみたいな。それを「よなよなピース」って言って、昨日、発売になった「よなよなエール」の今年限定缶も、名前が手前に書いてあって、裏のほうには「よなよなピース」って書いてあって―。世界平和みたいなことが書いてあるんです。
そういうのを見ながらみんなつながって、8月の後半に動画のお披露目があるんです。つながれないからオンラインで、われわれがそれを束ねて、みんながつながればいいよねっていう。つながって、幸せになろう、ハッピーになろう、世界平和を目指そうみたいなメッセージを発信しています。

みんなが喜んでビジネスになるって最高じゃないですか。ちょうど2年前に、マーケティングの神様っていわれてるフィリップ・コトラーさんの冠のコトラーアワードっていうマーケティングの賞が、初めて日本で開催されました。そこでわれわれが日本の現時点のマーケティングで一番、たけているということで、最優秀賞をもらったんですね。そのときの受賞理由も、「ファンをうまく幸せにしていってビールを販売している」「このファンマーケティングが素晴らしい」というのが選考理由でした。お客様が喜ぶだけだったら非営利団体、ボランティアみたいな形になっちゃうんですけど、そうすると永続性がないので、ちゃんとビジネスにつなげて、僕らだけがもうかるんじゃない、ファンだけが喜ぶんじゃない、取引業者も含めみんなが喜ぶような仕組みっていうのをちゃんと勉強してやっていって、だんだんそれが精度が良くなって、今みたいな感じになってきた。

最初は難しいと思います。「それやって、うちは何がもうかるんだ」みたいになるので。前は、お客さんが喜べばいいじゃないか、でも、それで会社がつぶれたらしょうがないよねみたいな感じだったんですけど、マーケティングとかの本を読みながら、本当にお客さんが喜ぶようなことをやっていくと、後で売り上げが付いてくるような体験を何度も繰り返し受けて。そういう経験ももとに、ちゃんと教科書も読みながら、ただ、いいことをしてお客さんが喜ぶだけじゃなくて、ちゃんと教科書に、こうやるとビジネスなんだよっていうのを理解した上で、全部自分たちでやってたんで、ノウハウもたまり、スピードもどんどん、何度も繰り返してやるうちに、振り返ってみると、それがビジネスモデルで整理すると、すごいことになっていた。いろんなマーケティングだったり戦略論の先生たちから注目されて、すごい企業だみたいな、規模の割には言っていただけるようになりました。そこは本当に難しいんですけども、社会的な意義があることをやりたいっていう感覚があることが大事で。それを本当にビジネスに結び付けようと思ったときには、我流というよりは教科書を読みながら、あとは、本当に社会課題を解決したいというところは、本人に、特に経営者に、ふつふつと湧き上がる思いみたいなのがないと無理だと思います。ただ、そこだけだと駄目なんで、そこがあった上で、マーケティング戦略を勉強してやっていけばうまくいくはずだと思っていて、それがうまくいかないのは、多分、思いが弱いのか勉強が足りないのか、どっちかなのかなと思ってます、私は。思いが弱いと途中で諦めますからね。うちなんかも創業から8年間赤字で、星野はそれを諦めずにずっと信じてやっていて、この人すごいなと思って。それがあったんで、その後15年連続、増収増益なんですけど、そういうふうに諦めないっていうことを私、創業から8年間赤字だった、どん底のときに学びましたね。

―――諦めないためにも、僕らが研究してるパーパスというのも、大切だと思うんです。志というか、強い思いっていうのがまず必要ですよね。

大事ですね。思いだけだと、それでも世の中、つぶれる会社は山ほどあるので。思いがまず最初にあって、その後それが自信を持って諦めなくて続けられるように担保となって、もうちょっと頑張ろうと思えるためには、ちゃんとした理論がいるんだと思います。理論があると必ずうまくいくわけじゃないけど、うまくいく確率は格段と上がるので。思いだけだと我流の域を超えないので、それはいちかばちかみたいな、うまくいってよかったねみたいな感じになるんですけど、思いがあって理論を学んでいったら、ぐんと成功確率が上がって、それは10回やったら7回ぐらいはうまくいくよな、きっと、みたいになるんじゃないかなと思ってます。

ポーターとコトラー

うちでは競争戦略論を勉強しています。特にポーターさんの競争戦略論とコトラーさんのマーケティングっていうのは、みんなで勉強してやっているので、そこをこの規模の会社で突き詰めてやっているっていうのも、なかなかないんじゃないかなと思いますね。

―――社員の方、全員が、ポーターとコトラー?

全員はいかなくて、今は有志が何人か増えてきて、前は私が一人でやってたんですけど、リーダークラスとか、今はそういう人が増えてきました。ちなみに、一緒に今ここにいる僕のアシスタントのファーラーは、戦略論の勉強会みたいなのを、ここ数カ月前からやりだして、募集した仲間が結構いて、僕に詰め寄ってきて、僕が今まで一人だけで分かってたことが、それを言語化してみんなに分かりやすく説明したり、僕も曖昧なところがもう一回、勉強して、ここはこういうことだったなみたいな、お互いに切磋琢磨しながらやってるっていうのが、ちょうど今リアルタイムで、僕のアシスタントも含めた社員たちとやっている取り組みですね。

これも、つい1、2週間ぐらい前にその回やったときに、僕がアップデートしてなくて記憶が定かじゃなくて、現段階で誤解をしていることもあったわけなんです。あとは、それをうまく説明できない、それはこういうことだよね、よく整理するとこういうことだよねみたいなのもあるんですけど、彼らが言ってなかったら、曖昧なところで、数年前までは正しかったんだけど、今の事業形態でいくと、それは過ちみたいなのもあったりして、それはこういう機会がなかったら私も気付かなかったんで、とってもいい、これぞ切磋琢磨の企業文化だなと思って。ちょっと賢くなりました、最近。

戦略とかの理解だけだったら多分、私よりも、今、勉強会に出ているうちのスタッフのほうが詳しいと思います。ただ、私がちょっと優位なのは、みんながまだ経験が浅い実地をたくさんやってる、実感値がいろいろあるわけですよ。この事業のときにはこうだった、ああだったって、そこがみんなとの経験の差なので。それと、こうやったときにリアルに戦略が、言葉に書いてある戦略とか細部の説明はみんなのほうができるけど、僕はそれがあんまり覚えてないけど、それが事業行動の中でしっかりと経験値として、このときはこうで、ああだ、こうだみたいなところは、まだ長く生きてる分、少し有利かなみたいな感じで。けど、もう、学問だけでいくと多分うちのスタッフのほうが優秀な人間が何人もいますね。

「よなよなエール」で
ノーベル平和賞

―――未来にかける思いをお話しいただいてもよろしいでしょうか。

まず、数年以内に、さっき言った、当面のビジョンに掲げている、クラフトビールのマーケットをもっと広げていって、そこで圧倒的ナンバーワンになって、シェアもある程度、取っていって、ビール文化を変える礎にしたいと思っているんですね。そこで10年後とか何年後になるか分かんないんですけど、日本でも、大手さんのビール以外でも、普通の人がいろんな「IPA」ちょうだいとか、「ペールエール」ちょうだいとか、もしくは「インドの青鬼」ちょうだい、「よなよなエール」ちょうだいとか、いろんな選択肢を普通に飲むように、まずは数年以内ぐらいで日本の文化にしたいなと思っています。その先は、世界にも今、輸出していますけど、われわれがビールだけじゃなくて、ビールを通したエンターテインメント事業をどんどん世界に広げていって、ビールのバラエティーを通して、僕らの活動を通して幸せになる人をたくさんつくっていって、将来は「よなよなエール」でノーベル平和賞を取りたいというのが、ここ数年ずっと言い続けていて。ノーベル平和賞が取りたいわけじゃなくて、そういう幸せな活動をしていった結果にノーベル平和賞が取れたらいいなと思っているので、目指すは世界平和っていうふうに思っております。

クラフトビールを通して、「仲間をつくる」「幸せになる」「世界のトップブランドになる」「世界平和」楽しそうにスケールの大きいことをお話される「てんちょ」さんの笑顔がとても印象的でした。パーパスを掲げてあきらめない。勉強して試行錯誤する。お話を聞いている私たちもとても勇気がもらえました。
ヤッホーブルーイングのらしいストーリーは以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。

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