Rashii

「よなよなエール」でノーベル平和賞を目指す?

ビールに味を!
人生に幸せを!

「てんちょ」ことヤッホーブルーイング代表取締役社長 井手さん 「てんちょ」ことヤッホーブルーイング代表取締役社長 井手さん

―――ミッションについて教えてください。

よろしくお願いします。井手です。ニックネーム、てんちょです。われわれみたいなクラフトビールメーカーは、昔「地ビール」っていわれていたんですけど、こういう企業が誕生するまでは、皆さんご存じ大手メーカーのビールしかなかった。大手メーカーのビールは、日本ではあれがビールって当たり前になっていたんですけど、実は100種類以上あるといわれてるビアスタイルの中の「ピルスナー」というたった一つのスタイルにすぎないんですね。あれだけがビールだと思っていた今までの日本のビール文化、喉越しを中心にしたビール文化を、変えようと。ビールっていうのは、もっといろんなバラエティーがあって、もっといろんなタイプのおいしさがあって―。日本のビール好きの皆さんにその存在をお知らせして、そんないろんなビールを楽しむ文化を定着させていきたい。ビールを通して、ただ喉の渇きを潤すモノではなくて、ビールは飲んだらおいしく、楽しく、幸せになれるものだということを、われわれ実感していますから、つまりは「ビールを通して幸せをお届け」できるようになっていきたい。そんな想いを込めてミッションをつくりました。

このミッションを考えたときには、ここまでのことは正直想像できていなかったですが、お客様の中で「人生の一部」ぐらいなことを言っていただく、そんな熱狂的なファンの方がたくさんいらっしゃって、本当にうれしいです。われわれのビールを飲むことが、生活の一部、ライフスタイルみたいな感じになってくださっている。ただの喉の渇きを潤す工業製品とか、単なる「モノ」としては見ていらっしゃらない。少なからず我々のビールから幸せを感じていただけているファンの方がいらっしゃるのかなと。本当にありがたい。ミッションの意味合いを感じます。

※ミツカネにんべん

―――目標の「圧倒的ナンバーワン」にかける想いを教えてください。もう達成されたのでは?

いえ。まだ力不足でなっていません。しかしこれは具体的な取りあえずの通過点、「クラフトビールカテゴリーの圧倒的ナンバーワン」は数年以内ぐらいに達成したいと思っています。これも私が2008年に社長に就任したときに、そういう大きい目標を掲げて、だんだん近づいてきているという状況です。クラフトビール市場を盛り上げ、400社以上あるクラフトビールメーカーの中で50パーセント以上のシェアを最低でも取るぐらい、リーダー的存在になっていこうと―。「圧倒的」とはそういう意味です。そのときの金額的なシェアの目安はビール市場の1パーセントぐらいを単独で取ってやろうと。1パーセントっていうと沖縄のオリオンビールさんぐらいです。なぜオリオンビールにしたかっていうと、オリオンビールって、歴史があるっていうこともあるんですけども、大体、大人はみんな知ってるんですよね。ビール飲まない人も、オリオンビールという名前は聞いたことがあるはずです。これってすごいことだなと思って。一番売れている「よなよなエール」でも、そこまで認知は高くない。クラフトビール400社以上の中でも断トツナンバーワンではあるんですけど、そういう意味での圧倒的ナンバーワンって定めたところのポジションにはまだいってない。

みなさん、
おいしいビールできましたよ!
ヤッホー!

ヤッホーブルーイングの製造するクラフトビール ヤッホーブルーイングの製造するクラフトビール

―――名前の由来を教えてください。

われわれの本社所在地は軽井沢。軽井沢の山の中からおいしいビールができたよ、「皆さん、おいしいビールができましたよ!ヤッホー!」っていう。呼び掛けて「ヤッホー!みんな飲んでくれ!」と、そういう意味合いでヤッホーブルーイングという名前にしました。このあたりのユーモアは、創業者の、星野リゾートの代表の星野が中心になって、私が入社するときにはもう決まっていました。この辺のユーモア的なところも彼の独特のセンスっていうところはありますね。それを私が受け継いで進化させまくってるっていう感じです。(笑)

―――ガッホー文化とは?

「頑張れヤッホー!」の略です。私たちは「組織文化」っていうのをとても大事にしています。その組織文化には6つの要素があって、まず「フラットな組織で自由に議論できる」ということ。フラットな組織から、「究極の顧客志向」を目指し、その時の仕事の仕方が、「仕事を楽しむ」「切磋琢磨する」「自ら考え行動する」その中心になるのが「知的な変わり者」。この六つから構成されているものがガッホー文化です。ガッホー組織、ガッホー文化と言っています。

「フラットな組織」とは、みんな仕事に対するスタンスは同じで上下関係がなく、誰の意見が正しいというわけじゃなく、自由な議論ができる環境のことを言います。そのためには階層はできるだけ少ないほうがいいので、今はとてもシンプルに、社長と責任者と一般のプレーヤーというふうに分けています。よくあるピラミッド組織だと、社長の方針が、社長から取締役、取締役から部長、部長から課長、課長から係長、係長から一般職に落ちてくる。でも、いや、それは違うんじゃないかって、社員が係長に上げて、課長に上げて、部長に上げて…、社長に届くことって、きっと、ゼロじゃないですか?そうすると、社長がよほど優秀な方だったり、社長が得意な分野は正しいのかもしれませんが、しかし実際は社長もスーパーマンじゃない。現場で起きていることは現場の人間が一番詳しい、これを一方通行で決めるのは良くないでしょう?なので、社長も責任者も一般プレーヤーもみんな対等な立場で議論して、みんなでそれが一番いいよねっていうのを決めるやり方をわれわれはしています。これをできるには、社長に忖度したり、社長から言われたら反論したいと思うけど、反論するといろいろ評価に影響があるから言わないと、結局それが最善の打ち手ではないことがまかり通ってしまう。せっかくの機会を無駄にしてしまう、というのが往々にしてあるのでは。みんなで議論して一番いい案をみんなで決める、そのためには「フラットな組織」が有効である、そんな考えでやっています。

ヤッホーブルーイングのスタッフ ヤッホーブルーイングのスタッフ

―――常に議論があちこちで湧き起こっているような、そんな感じなんですね。

そうです。議論はいろんなところでいつも起きています。議論によって結果の出る時間には差がありますが。経営理念をきちんと理解して、物事の判断が的確な人間が多い中で議論すると、早く議論が収束して決定します。あとは、お互いの強みとか弱みが理解しあっていると、この人は分析が得意だよな、だから、この人が言うのは確かに正しいかもしれないとか、この人は人間関係を親密につくるのが上手だから、「誰々さんはこう思っているんじゃないかな?」という意見は聞いたほうがいいなとか、いろんな人間関係とかチーム状況をよく把握している人間が議論すると、本当にスムーズに速く決まります。いちいち私が細かいところを知らなくても、概要だけ聞いてれば、現場で一番分かる人たちが判断してくれて、縦割り企業じゃないので他の部門の人間も余計なおせっかいで、やんや言うので、私が聞く頃には、いろいろな疑問点みたいなものが、ほぼ解決されています。スピードも速いし、打ち手の精度もすごい高いっていう、こういう状況になるんです。しかし1年、2年ぐらいの入社の人間だと、そうはいきません。議論に時間がかかりますし、感情的にもなったりもします。スムーズにいくまでには、なかなか大変なので、普通の企業は採用しないでしょう、こういったフラットな組織は。

インタビューの中で、社長(愛称:てんちょ)と社員の方(愛称:ファーラー)とのやり取りがあり、普通に「てんちょ」「ファーラー」と愛称で呼び合う様子から「フラットな組織」を垣間見ました。ヤッホーブルーイングのミッションと、それを支えるガッホー文化、ガッホー組織の考え方から、社員全員がミッションを自分事化して、楽しく前向きに取り組まれている、それによってミッションがかなえられていく、そんな仕組みがわかります。中でも「仕事を楽しむ」というのは強い―。それは、フラットな組織で自分の考えを求められること、「モノ」ではなく「幸せ」を届けているというミッションから生まれているのではないのでしょうか?そこにヤッホーブルーイングの志(パーパス)を感じます。
次に続きます。

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