Rashii

パーパスって、なんだろう?

日本の企業は、なぜイノベーションを起こせないのか?

―――御社は、いち早く「パーパス・ブランディング」に取り組まれていますが、どのようなきっかけで始められたのでしょうか。

齊藤氏:私はもともと、広告会社で勤務していました。その時によく「イノベーションをどうしたら起こせるようになるのか」といったような問い合わせがあったんです。ただ、それに対してアイデアを出しても、なかなか実行に移せないことが多かった。そのころから、「日本の企業はなぜイノベーションを起こせないのか」という課題意識をずっと持っていました。

その後広告会社から独立し、ある日、弊社のアメリカ人スタッフから「もしかすると、日米の企業の差は技術やお金、人材などではなく、『パーパスのあり/なし』から生まれているのでは」という発言があったのです。それをきっかけに、まず社内でパーパスについてのリサーチを始めました。それが、パーパスとの出会いですね。

パーパスには、様々な形があっていい。

―――様々な企業と仕事をする中にも気づきがあったということですね。日本企業は、社是や経営理念、ミッション・ビジョンなどを掲げていることが多いですが、その部分とパーパスの関係は、御社ではどのように整理をされていますか。

青山氏:よく、「ミッション・ビジョン・バリューはセットでないといけない」というようなことを言われますが、パーパスには、そのような体系が良くも悪くもありません。アメリカの企業を見ても、パーパスだけを掲げている企業、パーパスとミッション・ビジョン・バリューをセットにしている企業、など様々です。

我々としても、細かい決まりは定めず、その企業に合った体系で柔軟に導入できればいいと考えています。パーパスに合わせて思い切って全部変えるという方法もありますし、今ある体系に新たにパーパスを付け足すなど、様々な形があっていい。これは考え方次第かと思いますが、今ある理念が存在理由を示しているのであれば、まずは「これが理念であり、パーパスでもある」ということでも良いと考えています。
パーパスのいいところは、柔軟で難しくないところであり、「なんでやっているのか」に対して「こうだからやっている」という、シンプルな考え方であることだと思います。だからこそ使いやすいのだと思っています。

SMOが考える「パーパス」と「ミッション・ビジョン・バリュー」の関係。「存在理由」であるパーパスは、ミッション・ビジョンなどの起点となる。 SMOが考える「パーパス」と「ミッション・ビジョン・バリュー」の関係。
「存在理由」であるパーパスは、ミッション・ビジョンなどの起点となる。

―――パーパスを「導入」するには、ただ設定するだけでなく、きちんと浸透させる必要がありますよね。その場合、単純に考えると大企業の方が浸透は難しいようにも感じますが、パーパスを浸透させるには、どのようなことが重要だとお考えですか。

齊藤氏:例えば、コピーライターにパーパスを書いてもらい、あとは貼っておくだけ、というような「絵に描いた餅」ではダメです。私は、トップが本気で打ち出すことが重要だと考えています。トップが、パーパスに基づいた投資、事業計画、人材採用などを進めれば、会社の規模感に関わらず、変わっていきます。実際、GAFAもパーパス ドリブンな経営をされてあそこまで成長を続けていますし、会社の規模感ではなく、「本気度」によるのではないかと思います。

青山氏:大企業こそ、パーパスが必要だと思います。大企業には多様なバックボーンを持つ人が集まったり、事業も多岐に渡ったりと、一貫性がなくなりがちです。だからこそ、「突き詰めると何なのか」というものがないといけないと思います。

この会社は何のためにあって、そこで働く自分は何をすればいいのか。これがわからないと、働く意味が見出しにくくなっている。近年では、組織のマネジメント文脈でもパーパスが注目されていますが、そこが要因だと思います。

―――「本気度」と聞くと、Nikeが「コリン・キャパニック」を起用したことが思い浮かびます。企業にはこのような「決意」のようなものが必要ということですよね。今の日本企業にはこのような「本気度」はあるのか、どのようにお感じですか。

コリン・キャパニック氏 https://note.com/t_yoshioka/n/n671e38596596
コリン・キャパニック氏は有色人種差別に抗議するためにNFLの試合前の国歌斉唱中の起立を拒否。その行為をきっかけに、彼は2016年シーズン終了から今までNFLでプレーできていない。NIKEは、2018年に展開した”Just Do It”30周年キャンペーンにコリン・キャパニック氏を起用。「何かを信じろ。たとえそれですべてが犠牲になるとしても。」というコピーとともに話題となった。

齊藤氏:日本企業を全体的に見て…と言うと、まだまだこれからかと思います。ただ、前向きな話もあります。例えばソニーさんは1年かけてパーパスを定め、既に浸透フェーズに入っています。社長は「パーパスが何より大事だ」と社内外で発信されていて、社員もそれに基づいた判断や、働き方をするようになっています。それ以外にも好事例と言えるケースもありますし、実際に、弊社への問い合わせも変わってきています。

弊社に対する相談も以前は「パーパスを一緒に考えてほしい」というものが多かったですが、最近は「パーパスを自分たちで考えているが、うまくいかないから入って欲しい」、「もっと浸透させたい」というような声が増えています。既にパーパスについていろいろ考えられた上でお声掛けいただくというように、ご相談のフェーズが変わってきている実感はあります。そのような意味では、日本でも少しずつ、「本気度」のある企業さんが増えてきていると感じています。

パーパスは企業の「存在理由」。シンプルゆえに柔軟で、日本企業にも導入しやすい考え方であることが分かりました。ただ、十分に浸透させ、外側だけでなく中の人から変えていくには、経営陣をはじめとした会社全体が本気度と覚悟を持って推進する必要があることを確認できました。次回は、今の時代に企業や個人が求められることについて、パーパスという視点から考察します。

  • facebook
  • twitter
  • line