Rashii

あなたのパーパスは、何ですか?

私たちも、
パーパスでつながった。

野村総合研究所 プリンシパル 古西幸登氏(左) 伊吹英子氏(右) 野村総合研究所 プリンシパル 古西幸登氏(左) 伊吹英子氏(右)

―――伊吹さん、古西さんはパーパスが注目される前から着目してサービスを提供されていますが、どのような背景があり取り組まれてきたのでしょうか。

伊吹氏:私は「CSR」という言葉が盛んに語られる前の「社会貢献」や「フィランソロピー」の時代から、企業と社会の関係を考えるコンサルティングに魅力を感じて取り組んできました。企業はこれまでもさまざまな形で社会に役立つ取り組みをしてきましたが、もっと社会にも企業にも意味があるような取り組みに変えることができないかと考えています。今ではCSRやサステナビリティ、パーパスなどにテーマが広がっていますが、こうしたテーマを大きな経営戦略として捉えることで、企業の持続的成長や未来社会の可能性にも影響を与えるようにできないかと思っています。

パーパスは、Rashiiのサイトにパーパスでつながると掲げられているように、「企業がパーパスを持つことによって本当に社会とつながる」「社会と共感しあえるような時代になってくる」と考えます。それは外部環境としての社会環境や事業環境が変化してきたからだと思うのです。「社会における確固たる存在意義を定義したパーパスが、これからの企業には必要となってくるのではないか」と考える中で、隣にいる古西とつながりました。

古西氏:私は「エグゼクティブ・コーチング」と「学習する組織」に基づいた組織開発のコンサルティングをしています。企業の経営者や役員層の方たちへのエグゼクティブ・コーチングから始まって、役員合宿、マネジメント層の意識改革、リーダーシップ開発などを行ってきました。

企業の経営層からは会社全体のビジョンや理念の見直しを、事業本部長クラスからは事業単位でのビジョンや理念の策定をしたい、というご相談は多いですが、「企業(役員個人それぞれ)によってビジョンについて語るときの視座が異なっている」というのをずっと感じていました。「自分たちがこうなっています」(Lv.1)という言い方がある一方で、「(特定の)顧客や業界に対して、こんな状況を創り出す」(Lv.2)や、「社会に対してこういうインパクトを与える、こんな社会(環境)を創り出す」(Lv.3)と、Lv.1~Lv.3で視座が全く異なります。

自分事で本気で考えたことがない組織は大抵Lv.1からスタートし、様々な対話・ワークショップを通じてLv.3に近づいていきます。このLv.3こそが、長期的かつより広く全体最適を意識した視点・視座であり、これこそが、社会的な存在意義・社会的な価値を考える際に大切になってきます。

私自身ずっとその視点・視座でやってきたので、世の中でパーパスがキーワードとして使われ始めた時にはまったく新しい概念というよりは、元々Lv.3の視座でそういうことを扱っていた方たちが世の中にいて、今そこに注目が集まってきているという捉え方をしています。

伊吹が「サステナビリティからはじまってパーパスにたどり着いた」という流れを、私は「組織開発・企業変革からパーパスにたどり着いた」という感じです。これも、サステナビリティと組織開発・企業変革が「交わり、つながった」という風に思い、最近一緒に行動をしています。

伊吹氏:まさにパーパスでつながったということです(笑)

―――お二人もパーパスでつながったんですね(笑)。違ったアプローチで推進されてきましたが、つながったのは最近ということでしょうか。

古西氏:2018年からですね。パーパスというキーワードの内容について一緒に言語化したり、どういうメッセージを発信していくか、などの話をし始めたのがそれくらいです。

企業の存在価値を定義するパーパスの重要性。 企業の存在価値を定義するパーパスの重要性。(野村総合研究所の図を元に作成)

―――パーパスは企業自身が再定義したものが多いのでしょうか。

伊吹氏:何もないところからパーパスを新たにつくるということではないと考えています。多くが、創業時から脈々と受け継がれてきている考え方や、今も組織のなかに既に存在している概念です。ただ、発見できていなかったり、自己認識できていない場合が多いので、それらを改めて発掘したり、「言語化する」ことが必要だと思います。

古西氏:企業は何かしらのビジョンや理念を掲げていますから、まさに存在意義であるパーパスが全く新しく登場するというのは基本的にはありません。何かしらの存在理由があるからその企業は存続しているのであり、その存在意義を「パーパス」という切り口であらためて磨き直して言語化するというのはありますね。

伊吹氏:日本の企業は理念の中にパーパスの要素が包含されていることが多いので、社会的な存在意義を新たに構想して全く新しいパーパスを定義づけなくても、自分たちの日々の営みのなかにパーパスが含まれているのを再確認することができるとよいですね。

古西氏:そうじゃないと、社員としてはビジョンがあって、理念があって、パーパスがあると混乱しちゃうので。ただパーパスという言葉をきっかけに「あらためて自分たちの存在意義を考える」という感じです。企業としての理念って、役員層はまだしも、社員はリアリティが持てない方が多いと思います。そうした社員に対して、パーパスを日本語で存在意義と訳を当て、「あなたの存在意義は何ですか?」と言う表現の方がわかりやすいと思います。

取り組みを続けてきた背景には、
二人のパーパスがあった。

―――ここに至るまでに社内では「その取り組みは儲かるのか?」という議論があったと思います。その中でやり続けてこられたのには、どんな想いがあったのですか。

伊吹氏:もともと「社会を良くする仕事をしたい」と考えていました。そして、社会を良くするために「企業を動かす」ことができないかと考えました。企業活動は社会のなかですごく大きな影響力を持っています。色々な形で社会を良くする取り組みはできると思います。コンサルティングという仕事では、企業の取り組みを社会に良い方向に変えていくことで、社会全体に大きなうねりを創り出せるのではと思います。

おっしゃるように「この活動は儲かるの?」とか、「投資家が変わらないと企業は変われないから、CSRが重要だと言われても変われないよ」ということは良く言われました。でも、この数年間で投資家をはじめとし社会全体が変わってきて「社会価値の創出」と「企業成長」が両立するようになってきたという実感があります。こういう仕事をしたいという強い思いを、細々と、でもずっと続けてきたということですね。ようやくこういう時代になって感慨深いものがあります。

―――CSV(Creating Shared Values)の概念が出てきてから変わってきた部分があるんでしょうか。

伊吹氏:そうですね。CSVが提唱された際に日本の企業はすぐには大きく方針転換したということはなかったのですが、しばらくして、SDGsの採択や日本でGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資を強化するとの動きを背景に日本企業は大きく動きはじめました。ベースとしてCSVの概念があって、SDGsやESG投資のきっかけが契機となって広がったのかなと思います。

―――古西さんは組織開発コンサルティングを続けてこられましたが、どんな想いがあったのですか。

古西氏:長年、企業の経営層・マネジメント層向けにコーチングをしていく中で、単純に売上が上がる、経済的な成長をする、というだけでは、そこで働く人も世の中(社会)も幸せにならないと感じていました。私たちのお客さまである企業の経営者・マネジメント層の方たちは、「何とか売上をあげなきゃいけない」「成長しなきゃいけない」という思いで一生懸命頑張られていますが、そのモードだけでマネジメントしても下はついてこないですし、長期的、かつ持続的にモチベーションを維持するのが難しいことは、組織開発コンサルティングを専門としている私でなくてもご理解いただけると思います。

私個人としては、この組織開発コンサルティングの仕事を、売上を上げるという経済成長を目的とするのではなく、「自分の提供できる(社会的)価値は何なのか?」「自分のコンサルティング・サービスは何のために存在しているのか?」といったことを常に自分に問いただしながら続けてきましたし、この「問い」で常に自分の価値観に立ち返るようにしています。

経営者が迷い・悩み、意思決定でブレたりするのは「何のためにやるのか」、「自分の存在意義」、「会社・事業の存在意義」がはっきりと意識化・言語化されていないからだと思っています。コンサルティングのご相談で、やり方・手法のご相談が来ても、それに即答はせずに、「そもそも何のためにやりますか?」「何のための組織ですか?」といったことを必ずお聞きします。

――企業の根源である「何のために存在しているのか?」「社会に対してどんな価値を提供するのか」を問い続け、見立て直し、パーパスとして言語化する重要性をあらためて確認できました。次回は、企業だけではなく個人のパーパスを描くことの大切さについて深掘ります。

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