Rashii

余白創造のプロフェッショナルになりたい。

「余白」とはスペースだけでない。
そこにいかに我々としてきちんとサービスを届けられるか。

―――「余白創造のプロフェッショナル」と掲げられていますが、それは社員一人一人に浸透しているのでしょうか?

月森正憲氏:言葉そのものが浸み込んでいるかは分からないですが、社員に浸み込んでいるのは「変化し続けようよ」ということです。一人一人が変化しないと事業も継続できないですし。

―――いろんな「余白」の中で力を発揮していく、ということでしょうか?

月森正憲氏:そうですね。「余白」もスペースだけではなく「時間」であったりとか、いろんな概念があると思うので。関連会社ではレストランもやっていますが、例えば「食べる」ということも「心の余白」ですよね。心を満たすとか。そういうことにつなげていますね。単に倉庫が空いているのでここでレストラン事業を起こしますではだめで、お越しいただく方の「時間の余白」だったり「体験」というところを捉えて、そこにいかにきちんとサービスを届けられるかということだと思います。
また、会社としても「社内」という考えが全くないんです。「社内」「社外」「日本」「海外」という考えもなくて、「ボーダレス」という考えですね。我々と同じようなビジョンを持っている人は、「社内」「社外」「国内」「国外」問わず、「一緒に何か面白いことやろうよ」と掲げています。我々もサポートするからには、とても強い思いを持っています。
私のチームにはエンジニアが16~17人ほどいるんですけど、フリーランスの方が多いんです。長い方で6年、一緒に二人三脚でやっている方もいます。そうすると自分たちで「なんかこういうことやってみたいね」とか盛り上がるケースもあったりして。嬉しい事例なんですけど、そういうメンバーが集まって会社を一個つくってみたりとか。そういった「起業組」も何社か事例として出てきています。ですから、若い人を応援するということが凄く好きな会社とも言えますね。社員については、会社における適材適所という考えはなくて「社会における適材適所を作っていきたい」考えがあるので、社内であろうが社外であろうが、若い人たちがどういう風に社会で活躍できるのか。そこで少しでも我々のこういった「余白」が活用できるのであれば、活用してもらいたいなと思っています。

―――「天王洲」自体のコミュニティと寺田倉庫の関係をお聞きしたいんですが?

月森正憲氏:実は今日(※取材当時)から「キャナルフェス」が始まりまして、今日から3日間あります。天王洲キャナルサイド活性化協会というところがあるのですが、企画・運営には私たちのメンバーも関与しています。

私の入社当時、天王洲はオフィス街というイメージだったんです。ただビル群に囲まれているといった感じで。でも、運河もあって、ゆったりとした空気が流れていて。羽田空港も近いので外国の方もアクセスしやすいですし。我々一社だけでは天王洲を盛り上げることはできないかもしれませんが、近隣の企業さまとタッグを組むことで、天王洲の魅力を発信する活動を続けています。我々のやっていることに共感してもらいたい、同じベクトルを持っている人に来てもらいたいとか、いろんな想いがありますが、週末に運河沿いで開催するイベントも何万人動員したいとか、そういった数ではなく、私たちが発信する同じ感性を持っている方に来てほしいという考えがあります。また、近隣にはアート関連の施設もあります。例えば、りんかい線側から来ると「PIGMENT TOKYO」という画材ラボがあったり、「建築倉庫ミュージアム」という建築模型に特化したミュージアムがあったりと。少し離れたところには「TERRADA ART COMPLEX」という複数の現代アートギャラリーさんが入居されているスペースもあります。そういったアート施設も点在していますので、それを目当てにいらっしゃるお客様や海外からSNSなどを使ってわざわざ「PIGMENTに来たい」というお客様もいらっしゃいます。

PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー) PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー):「色とマチエールの表現」を追求するラボであると同時に、ワークショップ、ミュージアム、ショップを備えた複合クリエイティブ機関。興味のある人々向けに講座やワークショップを開き、知識の共有と伝承も行なっています。また、企業向けのレクチャーやコラボレーションを通して、新たな表現の場と可能性を広げています。

アートだけでなく「文化そのものを保管する」

―――まさに「文化そのものの保全」と言えますね?

月森正憲氏:そうですね。アートだけでなく「文化そのものを保管・継承する」ということですね。「PIGMENT TOKYO」のような場所やアーティストが活動できるアトリエだったりを、守ったり育てたりしないと、「リアルな現物(=作品)」は生まれないわけです。だからこそ、その活動や支援も含めて大事にしていきたいなと考えています。

TERRADA×ART TERRADA×TENNOZ 

Tennoz Art Festival 2019/Art Work by Yusuke Asai Tennoz Art Festival 2019/Art Work by Yusuke Asai
建築倉庫ミュージアムが選ぶ30代建築家-世代と社会が生み出す建築的地層-展 建築倉庫ミュージアムが選ぶ30代建築家-世代と社会が生み出す建築的地層-展

「PIGMENT TOKYO」も店舗やECで画材を販売することだけを目的としているのではなく、昔から受け継がれてきた希少かつ良質な画材をきちんと後世に継承していきたいという強い思いが根底にあります。その上で、現役アーティストでもある運営メンバーが企画運営のもと、各種ワークショップや色彩に関するトークセッション、他業種とのコラボレーションなど、いろいろな仕掛けを行っています。
また、私たちのサービスには美術品の修復サービス(美術品修復工房)もありますが、これも文化の保全につながりますし、横浜美術大学さんでは修復人材の育成を視野に「寺田倉庫寄付講座 修復保存コース」を実施しています。

―――今後の寺田倉庫の展開はどのようになっていくんでしょうか?

月森正憲氏:「ライフスタイル」や「リアルエステート」を軸に、単にスペースを売るのではなく、「ライフスタイル×何をテーマにする?」「リアルエステート×何?」とか。今まででいうと「ライフスタイル×minikura」でクラウドのトランクルームができたように。「リアルエステート×イベント」でイベントの幅が広がったり。そういうことを軸にどんどん商品開発をしていって、ニッチなところでナンバーワン、オンリーワンを増やしていきたいですね。

―――「自ら大きくなる」というよりは「仕組みで世の中を変えたい」という気持ちの方が大きいということですね。

月森正憲氏:そうですね。「この仕組みがないと動かない」というようなプラットフォームで作れたらいいなと思います。「IT×リアル」はまだまだ可能性が広がる余地が十分にあります。ニッチ過ぎてなかなかやりたがる人がいない分野でもありますし。我々はモノをお預かりする仕組みを最適化するノウハウがありますので、それによって個人の方でも商売ができたり、個人が考えるアイデアが実用化できたり、そういったことを実現していきたいですね。

<編集後記>
「倉庫=スペース=余白=ゆとり=つながり=豊かさ」。
「余白創造のプロフェッショナル」が提供する独自の価値とは、預けることで生まれる豊かさではないかと感じました。そして、寺田倉庫の掲げるそのパーパスが、倉庫業を超えた文創企業としての姿をつくっています。提供するサービスを通じてアーティストを支援し、天王洲という場(余白)を通じてそのアーティストたちが人と人をつないでいく。経済価値と社会価値を両立するサイクルが、天王洲エリア・コミュニティを活性化し、新たな文化が創造されていく。まさに、「文化を、あなたと創る。」というフィロソフィの具現化です。また、「自分の生きる上で必要なものが、寺田倉庫に集まってくるように」というお話からも、モノは自分の人生観を表すものでもある、という気づきがありました。預けるという行為を通して、そのことに改めて気づくことも、余白が生み出す体験価値と言えるのではないでしょうか。使い捨て、大量消費、ファストファッション全盛の時代から抜け出し、モノを所有しない時代へと変わりゆくなか、余白の存在は、本当に大切なことは何か、豊かさとは何か、を教えてくれるのかもしれません。寺田倉庫の「らしい」ストーリは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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