Rashii

余白創造のプロフェッショナルになりたい。

「預かるプラスα」の価値を。

―――サイトを拝見したところ、「正倉院の蔵をお手本にしている」と書かれていたのですが、そこのお考えを教えていただけますか?

月森正憲氏:我々は価値があるものを「保管」だけでなく「保存」していくという想いでお預かりしています。例えば、それがカタチにあらわれているのがワインだったりアートだったり。コンディションを保っていくことで、将来まで、その価値を高めていくように。正倉院もそういった美術品を保管・保存できていたからこそ、今でもその美術品の多くが価値を持っていると思うんです。だから私たちも、そういう機能を持ちたいなと思っています。

―――価値が下がらないもの、もしくは価値が上がっていくものですね。

月森正憲氏:はい。そこも事業開発していくうえで「ポストワイン」「ポストアート」って何?というところで、そこは我々の次のテーマになるのかなと思っています。「保管・保存」というものをきちんとベースに置いて、ビジネスを展開していきたいなと思いますね。

―――ワインやアートは際立ったものがあるので、「寺田倉庫に入りたいという方」や「預けたいという方」もいらっしゃると思いますが、お客様との向き合い方が変わってきたなという印象はありますか?

月森正憲氏:そうですね。ワインやアートの個人向けトランクルームサービスは、実は古くからやっていたのですが、ただ預けるだけの色合いが強く、価格で見られていたんですね。それを、アート・ワインをテーマに、使っていただく方によりステータスを感じてもらうために、我々は何を用意するべきか、やるべきかと、「預かるプラスα」のところを考えていきました。
ですので、そう言う意味では我々のサービスを使っていただいているお客様の意識も変わってきているかなと思います。ただ単に預けるだけではなくて。「ワインの熟成もできる」「イベントがある」「価値があるワインが手に入る」とか。「寺田コミュニティ」というか「寺田クラブ」みたいなところも求められている気がしています。

TERRADA WINE STORAGE TERRADA WINE STORAGE:預けたワインは、丁寧に検品、撮影、データ入力されクラウド上で管理。
ワインセラーのフロアには、ご契約者様だけがご利用いただけるラウンジも用意されています。

―――「預ける」という行為のそのものから、「預けること」に価値がプラスされて、「寺田倉庫でしかできない体験」みたいなことでしょうか?

月森正憲氏:はい。預ける方にとって本当の楽しみは、ワインだとやはり熟成させて飲むということなので。専用のワインラウンジを設けたり、そこでちょっとしたパーティーを開けたりとか、ご契約者様の心をくすぐるようなコンテンツをご用意しています。数年前からご契約者様が来館して心地の良くなるような設備にしようと投資してきましたので。預けるために来るのではなくて、寺田のコミュニティを使って何かしらのワクワク感を得られるようなことをこれからもご用意していきたいと思っています。

「IT×リアル」というところを追求していきたい。

―――「ワインの情報を登録する」ということもつながりそうですね。

月森正憲氏:ワインもまだまだいろいろできるかなと考えていて。ITが得意なので、「IT×リアル」というところを追求していきたいと考えています。ワインは1本単位でお預かりするというサービスをやっていますが、それをクラウドで欲しいものを1本単位で取り出せるとか。我々としては例えば「どういった方がどういうワインを持っているのか」など、データベース化することで、お客様同士でワインの情報交換ができたりと、何かしらワインで次の仕掛けができるんじゃないかなと思っています。

―――すでにデータを活用されているということではなく、先に向けたデータによる支援ということですか?

月森正憲氏:はい。今まではそこまで踏み込めなかったんですが、データを活用してお客様により喜ばれるようなシステムやサービスを開発したいと思います。今まではただ単にスペースをお貸してるだけで「そこに何が入っているか分からない」という状況だったので。積極的にお預かりしているものをデータベース化しているところです。

―――「プラットフォーム化」ですね。

月森正憲氏:そうですね。個人の所有物というか、こだわりをもってきちんと保管しているもののデータベースは世の中にあまりないので。

―――ワインは比較的、生活者の方の生活にも関わりがあると思うんですけど、アートはビジネスを掛け算した時に、可能性はどうなのでしょうか?

月森正憲氏:まだまだ日本では「アート×IT」というのは進んでいなくて。今までの商慣習でいくと銀座の画廊さんなどで作品が売られて、セカンダリーだと作家さんの方には収益がほとんど落ちてこない。ただそれをITと組み合わせることで、流通の仕方も変わってくるんじゃないかなと思います。ITの良さはきちんとトレーサビリティを追えるという点です。最近だとITで「アート×ブロックチェーン」みたいなことにチャレンジしようとするスタートアップベンチャーも現れています。このアートがどういう作品で、それがどういう風に販売されてきて、それがきちんとブロックチェーン上で管理されているので「これくらいの価値」というお墨付きがあるような。アートをECで買うということも今までは馴染みがなかったと思いますが、ITの力を使えばアートもECで手軽に買えるかもしれない。その分野は我々もチャレンジをしています。
WEB上から気軽にアートをレンタルできて、充分楽しんだら返却いただいて気に入ったら購入もできる、作家さんの方にもきちんとお金が還元できるという仕組みですね。

BAZART(バザルト) BAZART(バザルト):約6,000点のオリジナルアート作品の中から、その時の気分に合わせてレンタルや購入が可能なサービス。ユーザーが訪れる度に新しい作品との出会いを楽しむことができます。

―――今は「過剰にものを持たない」という意識も強くなってきていると思うのですが、「モノ自体を受け継ぐ価値」など、寺田倉庫としての考えがあれば教えていただけますか?

月森正憲氏:たしかに若者を中心にお金をかけてまで、モノを預けるということは少ないと思うんですけど。だからこそ、お金をかける必然性を感じるような商品設計をしていかなければならないと思います。アートやワインは自分のライフスタイル・ステータスが顕在化するので、そういったコレクションをしたい人はまだまだいるのではないかとも思います。シェアリングエコノミーは洋服や車に最適化されていますが、それだけではなく、コレクションを通じた価値観の証明というか、きちんと管理しておけば「自分の持つべきものは何か」という断捨離ができ、大切かつ必要なものが寺田倉庫の中に集まってくる。そんな存在になっていけたらいいなと思います。

――次回はいよいよ最終回。寺田倉庫が掲げる「余白創造のプロフェッショナル」とは?そして、天王洲という場で生まれる新たな価値・つながりとは?寺田倉庫の現在に迫ります。

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