Rashii

人とロボットが、あうんの呼吸で。

イノベーションなんて運です。
だから、
成功事例なんて見ない。
失敗からどれだけ学べるか。

株式会社ATOUN 藤本 弘道 社長

-ゴールして初めてイノベーションということですが、イノベーションを起こすために、必要なことはなんでしょうか?

藤本 弘道氏:私はイノベーションの種のことを「俺のイノベーション」と呼んでいるんですが、研究者や技術者は「これはイノベーションだ!」と思ってやっている。最初は、まだ商品ではなく、まずは要素技術として新しいものだったり、チャンピオンデータがよかったり、という類のものだったりするんです。みんな、「俺のイノベーション」として、自分はすごいことをやったんだと思っているんですが、ビジネスとして成功するためには、ひとつ谷を越えないといけない。その谷を越えてビジネスとして成功したものだけが、のちの歴史で「イノベーション」と呼ばれるんです。それ以外のものは失敗事例と呼ばれる。でもそれは商品としての失敗であって、取り組み自体が失敗だったとは言えません。「俺のイノベーション」には失敗はないんです、ある程度の目的まで到達できれば。では「俺のイノベーション」と「イノベーション」の間にどんな谷があるかというと、運やタイミングや資金、社会・環境の変化です。なかでも、一番大事なのは運かもしれません。

イノベーションを起こすために必要なこと

だから成功事例を学んでもしょうがないんです。ほとんど運ですから。さきほどお話しした理科教材になったゴム人工筋肉もそうでしたね。リハビリスーツが事業として頓挫して、散々お金をかけてきたのにどうしようと思っていた時に、たまたま教材メーカーさんから教材をそろそろ見直さないといけないし、人工筋肉を使えないかと相談があった。最初は金額面も合わなかったから、コストのことも含めそこから話がスタートしたわけですが、きっかけをもらえたから超えられたということは、これは運です。逆にリハビリスーツは運がなかった。では、なぜうまくいかなかったかと言うと、実は商品化を視野に入れたときに、患者さんがスーツを身につけているとき容態が変わったらどうするんだ、メーカーとしては責任とれないという話になったんです。でももし、少し環境や条件、事情などが違っていたら、実現していたかもしれない。時期やタイミング、誰と仕事するかなどもあるかもしれない。だから運なんです。こういうことはこれまでたくさん経験してきましたから、今は、いろんな人の失敗というか、谷底に沈んでいる俺のイノベーションたちをよみがえらせて、美術館に展示したいなあと思ったりもします 笑

失敗の奥底にある哲学。
その先に、
新しいイノベーションがある。

株式会社ATOUN 藤本 弘道 社長

今だから出して、それをちゃんと説明して、みんなでその失敗を楽しんだらいいなと。「これはないやろ」とかいいながらも、でもそのなかに、今の時代だったらこうなるんじゃないのとか出てくる可能性もある。薄暗い部屋の中で、プロダクトであればきれいな台の上に置いてスポットを当てて。まるでミケランジェロの彫刻作品でも見るかのように 笑
失敗事例ってゴミのように扱われることが多くて、たまに失敗事例展みたいなのもありますけど、ホワイトボードに貼られて明るい部屋で、なんかクリエイティブ感がないんですよね。もっと尊重してあげてもいいんじゃないかと思いますね。そうしたら、リ・イノベーションも起こるんじゃないかなと。失敗学、失敗学という割に、一番大事な失敗事例をとことん集めることをやっていない。宝の山かもしれないのに。成功事例を集めても意味はないんです。スティーブ・ジョブズの成功事例はスティーブ・ジョブズにしかできない。まねできない。きっとそのときの運もあるし。でも、失敗したことだけは確実にまねできる。失敗は必然ですけど、成功は偶然ですから。だから、失敗は学べる。事例として学ぶのではなく、もっと奥底にある哲学というか、そういったものを感じ取れるようにしたら、新しいイノベーションが生まれるかもしれない。

-イノベーションを起こすための開発プロセスやニーズの掘り起こしはどのようにされているのでしょうか?

藤本 弘道氏:うちの会社では、イノベーションを起こすために何か別の知識と組み合わせることが多いです。そのときに距離感を調べて、その中で距離がそこそこ遠いものを採用するといった感じです。

-まずは、近いものを選びたくなる気がしますけど、なぜでしょうか?

藤本 弘道氏:近いとイノベーションではなく改善なんです。現状の延長上にあるというか。遠いほうがイノベーションにつながりやすい。イノベーションには、とっぴょうしもないものとか、知識を組み合わせないという方もいらっしゃいますが、知識のないものや、無から何かを生み出すのは人間には無理だと思います。人間の最初の発明は何かなと考えてみると、きっと「火」だと思うんです。火を使いこなすという。でも、火は自ら起こしたものではなくて、雷が木に落ちて燃えてる火を持ってきたのが始まりじゃないかと。火がそこに存在したことと、木は火で燃えるという事実を知り、その中で、自分たちでその火を持ってきて守ったこと、それこそが火の発明だと思うんです。そういったことから考えると、突然ハッと思いつくというよりは、何か知識を組み合わせて見つけるという作業かなと思いますし、それが我々のやり口ですね。人と機械、ハイテクとローテクといった感じで、距離感のあるものを並べて、イノベーションを起こすというように。ここにいるのもそうですよね、瓦屋根の建物とロボット、もうそれだけで何か起こりそうですよね。奈良にいることもそうです、距離感がありますし。

少し距離のあるものを
組み合わせる。
和えて活かすイノベーション。

株式会社ATOUN 藤本 弘道 社長

人材の採用もそうですね。採用理由もギャップみたいなものを大切にしています。例えば、ある社員は、東大の博士課程で研究していたのに、「研究の意味」について考え始めて大学を中退してしまった。勉強なんて本来、意味を考えたらダメなんです。でも、そこには魅力的なギャップがある。だから、採用しました。今ではエース設計者として頑張ってくれていますよ。他にも、うちにきたとき36歳だったんですけど、世界を放浪していてその時点で社会人経験が3年しかない、という人もいます。どこに出しても履歴書は、はじかれるはずです。でも、そこには魅力的なギャップがある。じゃあ、うちが採っておこうと。そういう感じでメンバーを集めています。これを私は「和えて活かす」と呼んでいて。和え物とかカクテルのような。ちなみに、奈良にLAMP BARというバーがあって、そこにはバーテンダーの世界チャンピオンがいたりするんです。そういう人が出てくることを考えても、そもそも「和えて活かそう」という文化のようなものがあるんじゃないかなと勝手に思っています。何かを混ぜることで、元の価値を超えていくという。
ちょっと余談になりますけど、奈良はもともと1300、1400年前は日本の中心でもあった。日本にまだ文化のない時代に、海外から来たものを学びにいろいろなところから人が来て、人同士が入り交じって帰っていく。そういったなかで、奈良で初めて日本文化ができ始めて。奈良に都があったのは、2、300年のはずなんですけど、それだけの時間で最初の文化を形成した。文化の形成って、ひとつのイノベーションだと思うんですね。その土地で生きている人たちの経験と生活と中国の文化が組み合わさって混ぜ合わさって。それも奈良に拠点を置いている理由ですね。イノベーションの発祥地なんで。イノベーションを起こしやすい条件があったんじゃないかと。理屈じゃないです 笑 少なくとも最初に日本の文化を形成した地であることだけは確かなので。実際に、最大のイノベーションが起こっているんだから、その地に意味がない、はずがないという考え方です。

「イノベーションは運。だから、失敗からどれだけ学べるか。」といったお話や、採用のエピソード、奈良に拠点を置く理由など、すべてが「和えて活かす」という考え方につながっているように感じました。自分たちありき、ではなく、すべての制約や条件を受け止め、そこにあるギャップを魅力と捉え「和えて活かす」という考え方の先に生まれるものとは何か。第4回へと続きます。

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