最後は人が勝負。
※HORIBA MIRAの優秀な技術人財:HORIBA MIRA公式フェイスブックより

― ―技術人財の育成について教えてください。

足立社長:やはり育成の時間を稼ぐという意味でM&Aはすごく効果的な方法です。MIRA社の買収についても、最初にお話を受けた際には、我々のビジネス領域から少し離れている「飛び地」ではないか、という議論もありました。しかし堀場厚会長が現地に行ったとき、これほどの優秀な600人の技術人財、自動車好き、即ち「良い意味での車バカ」たちに一気に出会え、いきなりそれだけの人財と共に仕事ができる。これ以上にM&Aをしない良い理由はない。これが堀場会長が買収を決めた理由です。やはり技術。そしてその技術は人についている。堀場製作所のホリバリアンにもどんどん外に出て、お客さんのところ=現場、で育ってもらいます。原理と技術だけで製品を作っていても、現場では役に立ちません。お客さんが現場で何か手直しする必要がある、その横で「だったらうちがやりますよ」となる。現場で価値を作ると、差別化できるし、その業界にとってなくてはならない存在になれるのです。

優秀な技術人財が集まっているHORIBA MIRA

働いている時間が楽しければ
人生楽しいだろう。

※ものづくりをけん引していくうえで母港となる、びわこ工場「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」にあげられている帆

― ―御社の社是「おもしろおかしく」について教えてください。

足立社長:もともと創業者堀場雅夫が、人間というのは永く働くもので、その働く時間がしょうもないものだったら、人生もしょうもないだろう。働いている時間が楽しければ、人生楽しいだろう。だから楽しくやろうということで、「おもしろおかしく」という言葉を作りました。単にふざけるような楽しみではなく、実は深い意味があります。私自身としては、それは何かを実現して、後に振り返った時に初めてわかるものだと思います。大きなハードルや壁を超えるときというのはがむしゃらですから、もう逃げ出したいときもあれば、全然そんなのおもしろおかしくもない、と思うときもある。それが5年10年経って振り返ってみると、ああ、あの時やっておいてよかったなと思うようなことになる。

おもしろおかしく

― ―最近よく言われている「働き方改革」についてどうお考えですか。

足立社長:「おもしろおかしく」という想いは70年代くらいに創業者が提唱しはじめましたが、実はもうそこから堀場製作所では「働き方改革」という考え方があったように思います。私は85年に入社しましたが、86年から月に1回の週休3日が始まりました。その発想の狙いは、自分の好きなことをとことんやれ、休みはその時間だ、ということです。その意味で「おもしろおかしく」と通じています。働くなとは言っていない。今の働き方改革というのは、働くこと自体が悪いというようなイメージを与えているような気がします。それでは決してない。あるべきイメージではないと思います。

どんな人でも「今日いい仕事したな」と気持ちよく思いたいはず。それは絶対的に持っている。

― ―名和先生も「働き甲斐」ということを言っていました。

足立社長:技術系にしても営業系にしても、どんな人でも皆いい仕事をしたいという基本的な欲望があると思います。どんな人でも「今日はいい仕事をしたな」と気持ちよく思ってから仕事を終わって、クっとビールを飲みたいという感じの達成感です。このような欲望は、基本的に絶対皆が持っていると思います。それを否定しちゃだめだと思います。より皆が気持ちよく仕事をできる環境を整えること。それが働き方改革のめざすところだと思っています。

― ―社員の方はそういうモチベーションをどうやって作っているのでしょうか。

足立社長:やはり社是の「おもしろおかしく」は、一番簡単にこの会社はどういう会社かということがわかるメッセージではないでしょうか。だからこの会社に入ってくるすべての人は、もちろん苦しいことや厳しいこともあるということを理解した上で、「おもしろおかしく」の会社に入るという意識があるのではないかと思います。最近よく言っているのは自分で考えて、自分で行動してくれということです。そうでなかったら、お客さんに食らいついて、お客さんと一緒に、次の時代の自動車や半導体を作っていくことはできないと思う。何かおもしろそうだなという好奇心だけでいい。それだけ伸ばしていったらええんやと。それは止めていないはずです。

※HORIBA Philosophy Project

一方でメッセージを伝える努力は無茶苦茶しています。例えば「誕生日会」。今日も予定していますが、もともと我々の先輩の頃からやっていて、取締役がエプロンをかけて焼きそばを焼いていました。今となってはそんな量はこなせませんが、役員全員と、管理職を抜いたメンバーで一緒にパーティーをします。あとは「堀場ビアガーデン」とか…催し物は数えきれないです。その時にいつも堀場厚会長は常に人気者で、若手を中心としたメンバーと喋っている。途中入社された方なんかは、「あの人が堀場さんですか?」とビックリする。売上高2,000億円の企業になって、そこのトップが法被を着て一緒に楽しんでいるというのが、信じられないという人もいます。これは我々にしてみれば普通のことで、僕らも同じようにはしゃいでいますし。そういう文化というのが我々のビジネスの、ひとつの秘訣にもなっているかも知れないですね。

技術は人についてくる。人はだれでもいい仕事をしたいという基本的な欲望を持っている。チャレンジしているときは苦しくても、思い切り仕事をした後に振り返ると、あの時やってよかったなと思う。社是の「おもしろおかしく」によって仕事を思い切りできる環境が整っていて、だから様々な技術がここに集まってくる。堀場製作所の強みの根源がわかりました。J-CSVの好事例として堀場製作所の生み出す「社会価値」と「経済価値」について続けてお話を聞いていきます。

cainz

足立正之

博士(工学)
株式会社堀場製作所 代表取締役社長
ホリバ・フランス社(仏)
経営監査委員会議長 ※所属・役職インタビュー当時

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