名和高司 Vol.04

社会課題から入ってしまうと、間違える。

――企業がイノベーション起こすために、『J -C S V 』をどう活用すればいいのでしょうか?

名和先生:よくあるのが、社会課題から入ってしまうという間違い。世の中に社会課題はいっぱいあるけれど、普通の企業にとって関係ないことがほとんどです。答えは外にあるのではなく、自分の中にある。自分たちは何をしたいのか。何が得意なのか。何にこだわっているのか。自分たちのやりたいこと、こだわりを追求していく中で、関係する社会課題を逆に紐付けていく必要がある。魂が入るためには、「そもそも自分は何がしたいのか?」というところが原点となるのです。そこに立ち帰らずに、世の中の流れに目移りしていてもしょうがない。

こだわりが希釈化してしまった会社は、吉田松陰の松下村塾の中にも出てくる「あなたの志は何ですか」という原点に帰るところが大事。ただし、原点だけ守っていると頑固親父になってしまいます。自分の価値観に縛られて、動けなくなってしまう。前に述べた波佐見焼の閉塞状態です。自分の価値観を現代的に翻訳する力がなくてはいけない。そうしないと埃をかぶってしまう。だから、私は「ピボットが必要」だと言っているのですが、 軸足を動かさずにしっかり踏みしめて、もう片足は3 6 0 度動くように活動する。パーパスを持ちながら目的をしっかり踏みしめた上で、自分たちの行動半径、応用できる範囲を広げていく。その二つの技が必要だと思っています。

名和先生:結構難しいのですが、「求心力」と「遠心力」という技。やりすぎてしまうとブランドが希釈化してしまうのですが、ここから先はやってはいけないという領域を把握した上で、自分の価値観の表出の仕方を少し応用してみる。原点は自分なんです。自分が社会に対してどう貢献できるかという目で見ないと「ならでは」にならないんです。「ならでは」にならない限り、答えは出ない。独自性がない限り。ミートゥーになっては駄目なんです。お客さんから見て、別にその会社である必要はないからなんです。たまたま一つぐらい当たるかもしれないけれど、その会社が連続でお客さんの心を掴むためには、自分の根っこに近いところから発想しない限りは持続性がない。

「マーケットアウト」を、
作る。

――自分がやりたいことを推進していくと、独りよがりなもので世の中にマッチしない可能性も出てきます。それを避けるために多くの企業はマーケティングをして世の中のニーズを見つけて発信していこうとします。でも不確実な社会では、マーケティングもあてになりません。その点についてどうお考えですか?

名和先生:プロダクトアウトかマーケットインか、という考えがありますよね。そのどちらでもなく「マーケットアウト」、マーケットを作るということなんです。プロダクトでガンガン押すのではない。何が欲しいかお客さんは気づかないから、マーケットインしてもわからない。プロダクトをアウトしても押し付けになってしまう。だから、マーケットアウトというのは市場がこういうものであるはずだ、と発想する。商品ではなくこういう体験、こういうライフスタイルが求められているはずだと考え、マーケットとして広める。お客さんの視点で広めることが大事ですね。

――先生がよく例に挙げられる「無印良品」も、マーケティングをしないと聞いたことがあります。

名和先生:そうですね。自分たちの価値観の中にひとつの世界観を作って、共鳴してくれるかどうか、共感を持ってくれるかどうかが、彼らのバウンダリー(境界線)になる。それ以上はお客さんにすり寄らない。自分の価値観に引き寄せる、ということをしますね。

素材提供:良品計画

――スタイルを作るということでしょうか。

名和先生:そうですね。「ならでは」の人たちは、それをやらないといけない。ただ、独りよがりではいけない。一人ひとりが、モノづくりの人、プロダクトの人というよりも、マーケットの一員となって自分たちが本当に欲しいものは何なのか、ということをしっかり考えて、顧客と同じ目線にたって、共感の輪を広げていく。それが「マーケットアウト」です。

名和高司

名和高司(なわたかし)

一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻
客員教授 名和高司

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。『高業績メーカーはサービスを売る』(2001、ダイヤモンド社、共著)、『戦略の進化』(2003、ダイヤモンド社、共著)、『学習優位の経営』(2010、ダイヤモンド社)、『日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業』(2012、PHP研究所)、『失われた20年の勝ち組企業100社の成功法則 「X」経営の時代』(2013、PHP研究所)、『CSV経営戦略』(2015、東洋経済新報社)、『成長企業法則~世界トップ100社にみる21世紀型経営のセオリー』(2016、ディスカバー・トェンティワン社)、『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(2018、ディスカバー・トェンティワン社)など著書・寄稿多数。

  • facebook
  • twitter
  • line