名和高司 Vol.02

日本の良さ、価値が、地域に眠っている。

――中堅・中小企業の課題について、どう感じていますか?

名和先生:例えば、奈良に『中川政七商店』がありますよね。300年も続いてきた日本の典型的な良い企業のパターンです。まず300年続くっていうのはすごいことで、アメリカの建国以前。実は、世界中の200年以上続いている企業の20%は日本企業なんです。面白いんですが、300年以上だと30%、500年以上だと半分以上は日本企業というぐらい数字があってくる。しかし、ポーター教授に言わせると、「それってただの家業じゃないのか」。「サステイナブル(持続可能)かもしれないが、まったくスケーラブルではない」と。

中川政七商店ロゴ中川政七商店ロゴマーク

確かに、これらの企業の多くは、お醤油屋さんだったり、酒屋さんや旅館だったり。ずっと永続的に地域に愛されてきた会社が多い。村の中で村の人たちに愛されている前近代的な遺物なのです。ただ面白いことに、日本人にとっては古臭くても、インバウンドの人たちが古くて新しい日本を発見して、その良さに驚愕するわけです。それぞれの地域に眠っているものが、世界的に見たときに共感されたり、癒しを感じさせたり、そういう効果がある。今まで村社会に埋もれて見過ごされていたものの価値を、インバウンドの人たちのおかげで再発見することも少なくないのです。

中川政七商店東京本店内観

価値を見直すことで、
世界に広がる可能性がある。

――『中川政七商店』は、スケールアップさせた事例になりますか?

名和先生:今の13代目になってから、全国に広げ、海外の人にも知られるようなブランドになり、10年ちょっとの間に、何倍にも成長しましたね。さらに13代目の中川政七さんは、日本の隠れた匠の技をプロデュースしている。たとえば長崎県・波佐見焼の窯元に行って、現代風にアレンジすればもっと広く受け入れられるはずだと気づく。すると埃をかぶっていた波佐見焼が、ピカピカと蘇る。古い流儀に縛られていた人たちは、それを邪道だと思っていたわけです。たしかに、伝統美を大切にする濃いファン層は大切でしょう。しかし、クラシックだけではなくヌーボーもあってもいいはず。いろんな価値観と混じった時にもっと輝きを増すのです。

素材提供:中川政七商店

「和魂洋才」「和洋折衷」など、海外の文化を日本の伝統的な文化とうまくハイブリッドする力が、日本人には昔から備わっています。伝統芸をかたくなに守るのではなく、それを現代的な価値観にアレンジし直す。そうすることで、伝統的な価値が新しい装いのもとに蘇る。中川政七さんはそれに気づき、「日本の工芸を元気にする!」をキーワードに活躍しています。日本中に埋もれている匠の技に光が当たれば、いきなり世界に広がる可能性があるはずです。

  • 一澤看板
  • 「ならでは」が、人を惹きつける力になる。

    ――『J-CSV』とブランディングを、うまくハイブリッドしている企業はありますか?

    名和先生:京都にある『一澤信三郎帆布』は一店主義です。祇園の店に行かないと売っていないけれども、世界中からお客さんが来ていますよね。希少性があって上手に商売をしています。京都に行ったら知らない人はいないという店になっている。eコマースをしないんですかと伺っても、「しない」と。そんなことでお客さんとの関係が薄くなっちゃいけない。

  • ダイレクトにお客さんの喜びがわかる、お客さんがここまで来て買いたいと思うというその価値観を売りにしているわけです。口コミで良さが伝わるぐらい品質が良く、裏側にいろんなストーリーがあって、同じカバンでも海外のメーカーとは違って非常に実用性が高くて長持ちをする。エキゾティックな京都の中で、エキゾティックな売り方をしているのですごい話題性を持っている。中堅・中小企業の一つの生き方です。その企業「ならでは」をしっかりと伝えられれば、「一澤信三郎帆布」のように世界中から人が来る場所になる。ソーシャルネットワークの世界になると、希少価値かがすごく大事です。

日常的で「ワビ・サビ」があって、汎用的でありながら、癒しを感じる。そこをうまく訴求するとみんなが訪れるようになる。eコマースをやったら世界中に売れるかもしれないけれど、話題性がないと誰も見に来てくれない。eコマースをやるよりは、ソーシャルネットワークを使って話題性を作ることがすごく大事。「ならでは」を持っていれば、話題性がある。ユーチューバーも、話題性のある発信元を探しています。ここぞの掘り出し物を探している。当たり前のものじゃダメ。独自性がカギとなります。

名和高司

名和高司(なわたかし)

一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻
客員教授 名和高司

東京大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修士。三菱商事の機械(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。 2010年まで、マッキンゼーのディレクターとして約20年間、コンサルティングに従事。自動車・製造業分野におけるアジア地域ヘッド、ハイテク・通信分野における日本支社ヘッドを歴任。『高業績メーカーはサービスを売る』(2001、ダイヤモンド社、共著)、『戦略の進化』(2003、ダイヤモンド社、共著)、『学習優位の経営』(2010、ダイヤモンド社)、『日本企業をグローバル勝者にする経営戦略の授業』(2012、PHP研究所)、『失われた20年の勝ち組企業100社の成功法則 「X」経営の時代』(2013、PHP研究所)、『CSV経営戦略』(2015、東洋経済新報社)、『成長企業法則~世界トップ100社にみる21世紀型経営のセオリー』(2016、ディスカバー・トェンティワン社)、『コンサルを超える問題解決と価値創造の全技法』(2018、ディスカバー・トェンティワン社)など著書・寄稿多数。

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