Rashii

General chair, 4D Conference 立命館大学DML チーフプロデューサー 立命館大学経営学部 教授 八重樫 文 デザインマネジメント:デザインの力

一つひとつの意味を問い直す。
自ら積極的に介入する。
それがデザインなのでは。

-社会と組織の位置づけを問うデザインとはどういったものでしょうか?

八重樫先生: 例えば大きな企業になってきて、創業から歴史を重ね時間が経ってしまうと、やはりどうしても機能分化してしまう部分が出てきます。製品がつくられてそれがどう売られているのかというところと、そもそもなんでその製品をつくっていたんだっけ?という部分がずれてくることがある。大きな企業になると、そこにたくさんの人が関わってきて、いわゆる伝言ゲームが始まってしまう。何を理念として、どんなビジョンがあって、それを誰に届けて、何を実現したいのかというところのひも付きが、みんな理解しないまま、これは今までもこうしてきたからとか、自分はこの部署のこの部分しか見ないからとか、機能分化によっておざなりになってしまう。そういう場合は、そこを再整理したり再コネクトしていかないと、今まではまだ良かったとしても、これからはどうかっていうところは、うまくいかなくなってくる。そこに必要なのが、社会と組織の位置づけを問うデザインです。

-そもそもの企業の社会での存在意義みたいなところも変えていく必要性があるということでしょうか?

八重樫先生: もちろん安易に変えるべきではないと思いますが、ビジョンというものは再定義されていくものだと思います。問い直しが必要になるときもでてきます。理念やビジョンは、その時代や社会背景のもとに設定されたものなので、社会背景自体が変わっているところで、その問い方とか表現の仕方っていうところは見直すべきなんじゃないかと思います。

意味のイノベーション ※意味のイノベーションは、同じ経験内での意味の変化や新しい経験によって起きる
ロベルト・ベルガンティ「突破するデザイン」より

-意味のイノベーションについて教えてください。

八重樫先生: これまでお話してきたことと同じです。モノの持っている意味が惰性化してしまったときに、もう一度その意味を問い直すという必要が出てくる。意味のイノベーションは「イノベーション」という言葉を使っていますが、そもそもこれまでのモノの意味は何で、これからその意味はどう変わっていくべきなのかを問うこと。そしてその意味の変化を第三者として観察するのではなく、自ら積極的に介入してつくっていく。それがデザインです。逆に言うと、今使いやすくなればいいとか、今まで100個売れていたところを200個売ろうというだけなら、単にモノの改善となり、これまでの意味は問われることがありません。そういうことではなく、そもそもなぜ今これがあるのか?それがこれからどんな社会を生み出していくのか?どんな小さなモノであっても、当然それは社会を構成している要素ですし、そのモノというのは、たくさんの人や組織が関わっているので無視できない。一つ一つの意味を捉え直していく局面にきているように思います。自分の反省も含めてですが、そういうことをこれまでおろそかにしてきた部分がある。ベルガンティの意味のイノベーションの話があって、デザインシンキングの社会的な隆盛もあって、そういった背景の中で、やはりデザインマネジメントの中でも、しっかり扱わなきゃならないタイミングなんだと思います。

そもそも会社がどうあるべきかという「ビジョン」、それを表現するのが「メタファー」。メタファーはビジョンを社会に伝える、ある種ツールなので、いろんな形を取り得ます。ビジョンはモヤモヤした自分がこうしたいと思う方向性、それを表現としてどう置き換えるのか。広告をモデルにすると分かりやすいと思うんですが、伝えたいメッセージがあって、どういうコピーで表すのか、どういうイメージを持つのか、またレイアウトはどうするのかとか、紙でいいのか、今なら Webなのか、チャネルやタッチポイントの話もあって、それらすべてがいろんなメタファー。一番身近なのは言葉に置き換えるということですが、その言葉っていうものも、時代や文化によってコンテクストが変わってくるので、その言葉の持つ意味というのも変わってきます。ビジョンは30年、50年同じであっても、それを適切に表現するメタファーかどうかを問うと、今のコンテキストに合っていない可能性があるのです。

先行き不透明だと
デザインが言ってしまうと
デザインの負け

八重樫先生: 60~70年代、ソニーのウォークマンに代表されるような、マーケットを生み出す前に新しい技術で製品をつくるという時代がありました。マーケットはともかく、自分のビジョンにそってつくるという時代、ソニーだシャープだ松下だと日本は強かった。自分がこういうものがあったらいいとか、自分たちの技術やオリジナリティを生かして、自分のビジョンのもとにつくっていくということがあって、それによってある程度市場が飽和してきた時に、モノが売れなくなってきた。消費者から比べられるようになって、実際に使っている人たちがいろんなものを使い、こっちがいいあっちがいいっていう風になってきた。そしてその声にも耳を傾けなければいけないというシフトがあった。それが80年代90年代の話です。そのシフトを経て現在がある。そして、そもそも自分たちにはビジョンがあって、その上で消費者の声を聴くということだったのに、声だけを聴いてしまうようになってしまった。たしかにマーケットがある程度読めなくなってきたっていうこともまぁ、事実です。グローバル化によって、いろんな社会的な背景が出てきているのでより複雑になりました。これまでのマーケット予測や、これまでのものさしで計ると、確かに先行き不透明です。しかし新たなものさしを導入すると、もしかするとそれは不透明じゃないかもしれない。そう考えた時に、ビジョンドリブンであるということが意味のイノベーションの特徴ですが、完全にビジョン先行型にシフトするという話ではなくて、マーケットを読むとかユーザーニーズを掴むっていう部分は洗練されてきているので、しっかり使って、その上で足りなくなってしまったビジョンをしっかり持つ。ビジョンの持つ意味を問い直してコンテキストやメタファーを再定義する。ビジョンをしっかり持った上で、マーケットリサーチもしっかりできるということで、ものさし自体が再定義されます。そうなれば、先行き不透明な社会という言葉でみんなが逃げているということは回避できるんじゃないかと思いますし、先行き不透明だという表現もだんだん無くなっていくんじゃないかなって思うんです。いつの時代もこれから起こることは誰にも分からないんです。でも、そこにデザインがデザインである所以があり、デザインであるということは先行き不透明だということで諦めるのではなく、自らつくることで社会をつくっていく、ということに繋がっていくので、先行き不透明だということをデザインが言ってしまうとデザインの負けなんです。

パーパスの再定義=
デザインの力で切り拓く

Rashiiのテーマである、パーパス。八重樫先生のお話からも、パーパスとデザインはとても密接で関係性が高いことがよくわかります。パーパスを再定義していくときに、デザインの力を大きく活用すべき。とても勇気のもらえるお話でした。八重樫先生は4Dカンファレンスのジェネラル・チェアーも務められています。10月20日に、立命館大学大阪茨木キャンパスで行われるオープニングイベントから、10月21日~23日大阪国際会議場で行われる4Dカンファレンス2019。日本で行われることの狙いや、その狙いを通して見えてくるデザインの本質について、引き続き八重樫先生にお話を聞いていきます。

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